中村修人 / Nakamura Syuto

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戦争映画『ダンケルク (Dunkirk)』観てきた感想

2017年の戦争映画『ダンケルク (Dunkirk)』


第二次世界大戦においてドイツ軍に包囲され、
絶体絶命となったイギリス軍の大撤退作戦、
Operation Dynamoを描いた作品。

端的に言って“超・怖い映像作品”


戦争映画と言えば、こっちとあっちのドンパチ。
そんな印象が一般的でしょうが、
この作品はほぼ一方的に、こっちがやられる側です。
全く敵側の兵士が映らず、終始正体不明の神出鬼没。
この演出によって、人間vs人間の印象が消え失せ、
恐怖という事象そのものと戦っているような雰囲気に。
その点は塚本晋也監督の『野火』に近いですかね。

加えて、人間ドラマも極力排されており、
お決まりの「俺、故郷に帰ったら…。」
というものは皆無に近く、
徹底的に窮地に追い込まれた英軍の兵士達を追っています。
そのため、ストーリーと言えるような、
心情を浮き彫りにしていく要素が少なく、
映画というより、映像作品の趣。
登場人物の誰にも感情移入を許さず、
「この酷い有様を客観的に見物してろ。」
という作品の冷たい態度が、
結果的に疑似戦争体験に近い孤独を観衆に押し付けます。

また映る“景色”が暴力的で強烈なインパクトを持っています。
誰もいない町、寒々しい海岸。
そこに佇む兵士達は皆、助け合うでなく会話するでなく、
ただただ、そこにいる。
いるしかないから。

そして、何より音が怖い。
銃声やエンジン音が物凄く怖いです。
映画始まって最初の弾一発目から、
「この映画、エンタメじゃねーから。」
って乱暴に自己紹介してくれます。
また盛り上がるシーンでは、
頻繁に段々とテンポが上昇していく楽曲が挿入されます。
没入して鑑賞していると、
楽曲のテンポと一緒に心拍も上がっていくかのような感覚に襲われ、
心臓に悪過ぎるので注意が必要です。

傑作でした!


第二次世界大戦ものをクリストファー・ノーラン監督が撮る。」
これだけで映画ファンの自分としては
テンションだだ上がり事案でしたが、
実際に鑑賞してみて、
そのテンションが無駄ではなかったことに、
喜びを禁じ得ません。
もはや悦びと言ってもいいくらいです。
ありがとう!
一部のお客さんには、その娯楽性の乏しさから、
つまらなかったとの評価もあるようですが、
元々そんなものを武器にしていた監督じゃありませんので、
これは“スケールアップした原点回帰作”でしょう。

そして撮影監督はホイテ・ヴァン・ホイテマとくりゃあ、
どこに捨てるところがありましょうか。
画の深さを最大限に引き出すその手腕は、
裏切りのサーカス」や「ザ・ファイター」で既に知れるところ。

音楽は、同監督の前作「インターステラー」から
やっと一皮剥けてくれた感のあるハンス・ジマー
今回も素晴らしいお仕事でした。

余談:ブラックホークダウンとの比較


個人的な見解で恐縮ですが、
リドリー・スコット監督の『ブラックホークダウン』
と並べると面白いんじゃないかと。
両作とも“徹底的に一つの戦闘を追った作品”
という分かり易い共通項はあるものの、
様々な点で相違があり、興味深い比較対象です。
ダンケルク』『ブラックホークダウン』
「敵が全く見えない」「大勢見える」
「人間ドラマがない」「相当ある」
「兵士間の連帯感が弱い」「相当強い」
「グロはない」「時々グロい」
「基本、静寂」「基本、うるさい」
「舞台が海や空」「砂漠の町」
「ホラー&サスペンス的」「アクション的」
「エンタメ感がない」「エンタメ感爆発」
その他諸々。
あ、両方共音楽はハンス・ジマーですね。
片方、もしくは両方未見の方、
ご参考にどうぞ。
どっちも面白いですよ。
疲れますけどね。